17日深夜放送のTBS『ドキュメンタリー「解放区」』「伝説のラッパー紅桜 ~壮絶人生、刑務所からの再起~」に出演する紅桜(左)(C)TBS
17日深夜放送のTBS『ドキュメンタリー「解放区」』(深1:23※関東ローカル)では、「伝説のラッパー紅桜 ~壮絶人生、刑務所からの再起~」を送る。
【別カット】タトゥーの入った手で涙をぬぐう…ラッパー・紅桜の壮絶人生が明らかに
2023年6月、ある男が刑務所から3年8ヶ月の服役を経て出所した。その男の名は「紅桜」。岡山県津山市出身のラッパーだ。取材交渉から2年、彼の出所の瞬間から家族再生、復活ライブまでの軌跡をカメラで追った。
ラッパーでありながら日本の歌謡曲や演歌、ブルースを思わせるパワフルな歌唱力。自らの壮絶な人生を歌った歌詞や、岡山弁での破天荒な言動はカリスマ的な人気を呼び、一躍HIPHOPシーンで知らぬ者はいない存在となった。
そんな成功が約束されたかに思われた矢先、紅桜は突如表舞台から姿を消した。公式の発表は無く“伝説のラッパー”とさえ語られるようになった。一体彼はどこで何をしているのか。すると彼が服役中であることが判明。覚醒剤、大麻…さまざまな罪を重ねていた。
妻と幼い子ども4人の家族を持つ紅桜。津山市内から離れた山奥、家賃6000円の市営住宅に住み、暴力と薬物が蔓延した環境で育った。父として、ラッパーとして、再起を懸けた4年ぶりの復活ライブに挑む。そして、まだ誰も知らない、彼がラップをし続ける衝撃の理由が明らかとなる。
番組では日本のヒップホップシーンをけん引するZeebraやR-指定にもインタビュー。彼らの言葉が紅桜という男の実像を浮き彫りにする。
■ディレクター・嵯峨祥平氏コメント
私は44歳になったが、思春期の頃に社会の矛盾、綺麗事に過敏になり大人に腹が立った。そんな経験は大なり小なり多くの人が通過儀礼のようにしてきたのではないだろうか。しかし、社会に出れば忖度がはびこり、清濁の濁の部分は大人がこぞって知恵を絞りひた隠しにして生きていく。自分もその片棒を担いでマスコミ業界で細々と生きている一人になっている。THE BLUE HEARTSに胸打たれ、尾崎豊に涙して、キングギドラに熱狂した日は何処へやら…。
現在、日本のHIPHOPブームをけん引する人気ラッパーのR-指定は本作の中で紅桜を「ピュア」と評している。「ピュア」の定義は人それぞれだが、ここでは“清濁のその全てをさらけ出している”という意味だと思う。「正義」がピュアなのではなく、人間が併せ持つ清濁の矛盾をそのままに表現してこそピュアなのではないかと。そしてその「ピュア」の純度にいつの時代も若者は心を揺さぶられる。
音楽は時代を映す鏡だ。時代によってそれがフォークソングだったりロックだったりHIPHOPだったりと、流行りがあるだけで根底は変わらないのではないか。
紅桜は貧困、暴力、麻薬が蔓延する環境で幼少期を育った。アメリカのスラム街から生まれたHIPHOPカルチャーが日本に根付きつつある現実もまた、日本社会の現状を映し出している。いわば紅桜は現場の最前線からのルポライターと言ってもいい。
当然のことながら犯罪は決して容認できるものではない。ましてや覚醒剤などいかなる理由があっても許されないと思っている。このドキュメンタリーを観て、嫌悪感を抱く人もいるだろう。それもまた当然のことと思う。
私は彼に密着して、彼のような壮絶な人生を歩まずに済んだことに感謝し安堵した。
ひとつも憧れない。しかし、一方で彼のように全てをさらけ出して生きていく生き様を羨ましくも思った。
現実から目を背けていては真実は見えてこない。彼がなぜアンダーグラウンドで支持されるのか。その一端がこの作品を通じて少しでも伝わればと思っている。