トロント国際映画祭でワールドプレミア上映された映画『大いなる不在』(左から)森山未來、近浦啓監督
カナダのトロントで開催中の「第48回トロント国際映画祭」(9月7日〜17日)で現地時間10日、森山未來主演、近浦啓監督の映画『大いなる不在』(英題:GREAT ABSENCE)のワールドプレミア上映が行われた。キャストの森山、藤竜也、原日出子、近浦監督が参加した現地での概況が届いた。
コンペティション部門「プラットフォーム」に選出された本作の上映は、メイン会場の「TIFF Bell Lightbox」で行われ、森山たちも観客と一緒に作品を鑑賞。森山は、塚本晋也監督の『ほかげ』でベネチア国際映画祭へ参加した後、そのままトロントに直行。トロント国際映画祭への参加は、今回が初めてとなった。
ワールドプレミア上映を終えて森山は、「今日はお越しいただいてありがとうございました。ここに来ることができ、光栄です。僕が演じたこのキャラクターは、劇中でも役者です。フィクション、虚構の世界に役者というアビリティを持ちながら彼の物語に入っていく、そういうフローを楽しんでいたような気もします」とコメント。
近浦監督の長編1作目である『コンプリシティ/優しい共犯』(2018年)以来の国際映画祭への参加となった藤は、「陽二という役に、私自身が完全にハイジャックされていたので、役作りはとてもスムーズでした。難しかったことはほとんど覚えていません」と話した。また「この映画を見るのは、今日で2回目となりますが、直美、I’m sorry.」と、劇中で彼の妻「直美」を演じた原に向かって、苦笑しながらお詫びする姿も見せた。
海外から高く評価される大島渚監督の『愛のコリーダ』(1976年)に主演し、日本人が思っている以上に国際的に知名度の高い藤。映画祭のポートレート撮影を担当したフォトグラファー、ノーマン・ウォンから、「私はあなたの長年のファンです」と撮影前に握手を求められるなど、その人気は健在だった。
また、国際映画祭への参加自体が初めてとなった原は「今日はこのような素晴らしいフィルムフェスティバルにお招きいただき、本当にありがとうございます。撮影期間中に、同じような状況を私自身抱えていたこともあり、その気持ちをそのまま投影して、役を演じたというよりも直美を生きたというように感じています。皆さんの心に何か届けばうれしいです」と、映画祭の雰囲気を楽しんでいる様子だった。
デビュー作に続き、長編2作目も同映画祭での初披露となった近浦監督は、冒頭のあいさつで「温かく迎えていただき、ありがとうございます。光栄です。2018年に、観客の皆様の圧倒的なエネルギーに強く心を打たれ、また戻ってきたいと思いました。そして今、長編2作目を持って帰ってきて、他の9本の傑作と並びコンペティション部門にノミネートされました。これほどうれしいことはありません」と、感無量の様子だった。
同映画祭のプログラミングディレクターのジョバンナ・フルーヴィ氏は、「近浦啓は、この2作目の作品を経て、すぐに日本の次世代の巨匠の仲間入りをする作家であるという評価がされるだろう」とコメントしていた。
米アカデミーの前哨戦として注目される同映画祭は、長らく非コンペティションの映画祭といわれていたが、2015年にコンペティション部門「プラットフォーム」を新設。今年は、「第89回アカデミー賞」作品賞を受賞した『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督が、審査員を務める。
『大いなる不在』は、コンペにノミネートされた10作品の中から選出される「プラットフォーム・アワード」に加えて、すべての上映作品から選ばれる「観客賞」(ピープルズチョイス・アワード)の対象となっている。授賞式は、現地時間17日に行われる。
今月22日からスペインで開催されるサン・セバスティアン国際映画祭でもメイン・コンペティションにノミネートされており、ヨーロッパプレミアが決定している。日本での公開は来年(2024年)を予定。