「第80回べネチア国際映画祭」ワールドプレミアを迎えた『ほかげ』チーム(左から)森山未來、塚尾桜雅、塚本晋也監督
イタリアで開催中の「第80回ベネチア国際映画祭」オリゾンティ部門(コンペティション)へ正式出品された塚本晋也監督(63)の『ほかげ』(英題:SHADOW OF FIRE)が、現地時間5日にワールドプレミアを迎えた。現地には、監督の塚本のほか、出演者の森山未來(39)、子役の塚尾桜雅(8)が参加。塚本監督作品が同映画祭に選出されるのは、『斬、』以来5年ぶり。新鮮で革新的な作品で構成されるオリゾンティ部門には18作品が出品されており、各賞が発表される授賞式は現地時間9日に行われる。
同映画は、終戦直後、生き延びた人々が抱える痛みと闇を真摯(しんし)に描き、戦争に近づく現代の世相に問う意欲作。半焼けになった小さな居酒屋で一人で暮らす女を趣里、物語の狂言回しとなる戦争孤児を塚尾、片腕が動かない謎の男を森山が演じている。
公式上映では、本編の終盤、エンドロールに差し掛かるやいなや、場内から惜しみない拍手と歓声が巻き起こり、劇場を埋め尽くした観客たちから、約8分間のスタンディングオベーションが巻き起こった。会場の熱気に包まれた雰囲気から同作への評価の高さがうかがえたという。
上映後には、観客とのQ&Aの場が設けられ、塚本監督は「まずは、ありがとうございました!grazie!」と感無量の表情をのぞかせた。作品について尋ねられると、「今回の『ほかげ』は、実際に戦争に行った人だけではなく、戦争のせいで恐ろしい目に遭った一般の人たちの目を通した物語です。僕自身は歳を取ったので召集されることはないでしょうが、もし今後、戦争に行くとなったら若い人たちです。そういったことが起きないようにという願いを込めて制作しました」と思いの丈を伝えた。
森山は「塚本監督の映画はどれも力強い作品だと感銘を受けていたので、今回、作品に参加させていただけるということを光栄に思っています」と初の塚本作品、そして、本作でべネチア国際映画祭に参加できたことへの感謝の意を表し、大きな拍手を浴びた。
また、初めての海外映画祭への参加となった塚尾は「Mi chiamo OGA. Ho 8 anni. Piacere!(僕の名前は桜雅です。8歳です。はじめまして!)」と、一生懸命覚えたというイタリア語でのあいさつを披露し、会場を沸かせる一幕も。
上映を終え、塚本監督は「実は、『ほかげ』は僕自身がとっても好きな映画にできたんです。また、今回、このような大きなスクリーンで上映できてうれしかったですし、お客さまが皆、息を詰め、集中して観てくださっていて、観終わった後に、祈りの思いが伝わったという感触を非常に強く感じられました。とてもうれしいです」と喜んだ。
そして、森山は、「ヨーロッパの映画祭に参加したのは僕自身初めて。べネチア国際映画祭という場所にこの作品で来られて、本当に光栄です。監督の込めた祈りやエネルギーがこれからどういう風に観客に届いていくのだろうと楽しみでもあります」と語った。
塚尾は「自分が出ている映画を多くの方が観てくれていると思うと、すごくうれしい気持ちでいっぱいです!」と答えていた。べネチア国際映画祭には9度目の参加の塚本監督だが、今回、初めて観客からのQ&Aの場に立ち会い、「お客さまが的確で実感のこもった質問をしてくれたので、想像以上に大事なことを伝えられた気がします。今の世の中の不安とか、戦争に近付いてきているということを伝えられたし、皆さんが真剣に聞いてくださったので、とても良い時間になりました」と振り返っていた。