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ネットの誹謗中傷は減るのか? 木村花さん死去で加速した侮辱罪厳罰化への動き、母・響子さんと共に戦う弁護士の懸念

木村花さん (C)ORICON NewS inc.の画像

木村花さん (C)ORICON NewS inc.

 今年3月、インターネット上の誹謗中傷への対応策として、「侮辱罪」厳罰化についての改正案が閣議決定。現在、衆院で審議されており、メディアやSNS等でも賛否さまざまな意見が寄せられている。こちらは、ネットで中傷を受けたプロレスラー木村花さんが、2020年に自死した問題を契機に進んだ動き。反対派からは、「言論統制だ」「表現の自由が奪われる」といった声も聞かれるが、果たしてそれは正しいのか? 厳罰化による変化、芸能界や一般社会への影響について、花さんの母・響子さんと共に同件を推進すべく活動してきた、日本エンターテイナーライツ協会の共同代表理事・佐藤大和弁護士に聞いた。

【写真】笑顔でピースする響子さんと花さん

■木村花さんへの誹謗中傷の科料はわずか9千円、厳罰化の審議進むも「あくまでスタートライン」

 「二度とテレビに出るな」、「早く消えてくれ」、「いつ死ぬの?」。フジテレビの人気リアリティー番組『テラスハウス』に出演していた木村花さんは、これらSNSの誹謗中傷、侮辱を浴びせられ、2020年5月に自らこの世を去った──。翌2021年、母・響子さんの訴えによりこれらのリプライを書き込んだ大阪の20代男性、福井県の30代男性に略式命令が下る。だがその科料がわずか9千円だったということに、響子さんはショックを受けたという。被害者は普通の生活ができないほど心を壊されるのに、加害者が支払う代償はあまりに軽い。この現状を打開すべく、響子さんと佐藤大和弁護士は、各省庁政治家に対して働きかけを行った。

 その結果、3月8日に政府は、閣議でインターネット上の誹謗中傷を抑止するための「侮辱罪」厳罰化や、懲役刑と禁錮刑を一本化した「拘禁刑」の創設を盛り込んだ刑法など関連法の改正案を決定。侮辱罪の現行法定刑は「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」だが、改正案はこれに加えて「1年以下の懲役・禁錮、または30万円以下の罰金」とし、時効を1年から3年に延長している。現在は衆院法務委員会で審議されており、4月26日には響子さんも参考人として意見陳述を行った。

 このように、着々と進みつつあるように見える厳罰化の動きだが、佐藤弁護士は「あくまでスタートライン」だと語る。仮に刑法が改正されたとしても、それですべてが解決するわけではない。

 まず、佐藤弁護士が挙げるのが、最初に被害者が相談する“窓口”である、警察の問題だ。

 「被害者から、『警察に相談へ行ったが、インターネットに疎い、よくわからないなどの理由で被害届が受理されない』という声が非常に多い。私たちが自民党の誹謗中傷に関するプロジェクトチームでそのことを訴えても、警察からは『しっかり対応している』と返ってきます。また自民党は、ネット上の誹謗中傷に対応するための緊急提言を出し、『捜査機関における体制の強化』を提言しましたが、現場レベルではあまり機能していないのが実情です。被害届が受理されず、捜査がされなければ、厳罰化に意味はありません」

 さらに、これまで時効が1年と短かったため、捜査は急がなければならなかった。だが時効が3年に延びることで、捜査が後回しにされる恐れもあるという。実際、筆者もSNSでの誹謗中傷、侮辱に遭った際に警察へ相談に向かったが、ネットに疎い刑事の対応を受け、専門の刑事に話を通してもらうまでに数時間を要した経験がある。

 「これほどSNSやネットで誹謗中傷問題が多発している今、現場が『ネットはよくわからない』と言っている場合ではありません。窓口である警察がこの問題に関する研修などを実施し、対応できるようにならない限りは、いくら厳罰化しても意味をなさない。また、侮辱罪の厳罰化だけでは足りず、立憲民主党が法案を出していますが、現状の誹謗中傷の被害に見合う刑罰を新しく創設する必要もあると考えます。個人的には、私生活の暴露行為についても規制が必要であると考えています」

■かつては「面倒くさい人」のレッテルも…芸能人が声を上げる時代がようやく到来

 一方で、芸能人・著名人の間では、新たな動きもある。花さんの事件をきっかけに、ネット・SNS上の誹謗中傷について弁護士へ相談する人が増えたというのだ。従来はそうしたトラブルや裁判を抱えると、「面倒くさい人」といったネガティブなレッテルを貼られることが多かったが、この流れが代わり、「多くの芸能人が声を上げたり、自ら発信できる時代がようやく到来した」という。

 「確かに表現の自由は大切です。また、権力者たちによる言論弾圧も絶対に避けなければなりません。でも、間違ってはいけないのは、『誹謗中傷は違法行為である』ということ。ある人の言動を“批判”するのは問題ありません。ただ、それが人格否定や名誉を毀損するような内容になるならば、“表現の自由”として放置しておくべきではない」

 そもそも侮辱罪自体が明治時代に成立したもので、これは口頭での侮辱を前提としていた。だがネット・SNS時代の今、状況はまるで異なる。

 「加えて、メディアが誹謗中傷を煽るような報道の仕方をしないことも重要。しかし、政治家がメディアの責任を問うと、すぐに『言論封じだ』と騒ぎ始める。では、メディアに自浄作用が働いているかと言えば、そうとも言えない。これでは報道被害や冤罪被害が発生し、ネット・SNS上での私刑も生まれかねません。もちろん表現の自由は守られるべきですが、メディアを含めて現状のままで良いとは決して言えません」

 また、各プロバイダ、SNS事業者の協力も不可欠だ。

 「これらの協力がないことには、個人の特定すら迅速にできません。それだけでなく、SNS事業者が自ら対策をとり、またそれを法で規制することも必要。例えばドイツでは、すでに非常に厳しい対策がSNS事業者にとられていますし、EUでも違法コンテンツの削除等を義務付ける法案を進めています」

 ドイツで、SNSにおける法執行を改善するための法律が制定、運用開始されたのは2018年。違法と思われる投稿の削除、苦情受付サイトの設置などを義務づける「SNS対策法」というものだ。登録者200万人以上の営利的SNS事業者に課せられたこの法では、苦情が寄せられたコンテンツを審査し、明らかに違法なものは削除。また、コンテンツ自体にアクセス制限がかけられる。年間100件以上の苦情報告を受けたSNS事業者は、これをどう処理したかを半年ごとに報告書を作成し公表。これら義務を十分に行ってないと認められた場合は、最高5000万ユーロ(約68億円)が科せられることになる。

 刑罰が軽い、SNS事業者が対策を講じない…その結果、ツイッター社への民間の情報開示請求が2年連続最多という、日本のSNSの暗部がわかるデータも報告されている。

 「厳罰化は抑止力にはつながるとは思いますが、『罰せられるから誹謗中傷はダメ』なのではなく、再犯防止のためにも『SNS上でも人を傷つけるようなことをしてはいけない』という教育が必要です。教育は子どもだけでなく、社会人にも行うべきで、SNS事業者がセミナーなどで啓蒙していくべきでしょう」

 誹謗中傷といっても、悪意がある場合もあれば、自分が正義だと思って投稿する人、はたまた炎上を楽しむ愉快犯のような人もいる。面と向かって人と対するのと同じように、一旦立ち止まり、投稿内容に目を向ける。そうした自制心を持つことが大事だし、それが必要だと知らなければならない。

 「やって良いことと悪いことを知る。自制心を持つ。言葉の先に人がいるということを知る。誹謗中傷の投稿は一瞬でも、被害者はこれを解決するのに1年以上の歳月、また莫大な弁護士費用もかかっています。このような現状を変えるためには、まず皆さん自身が『これは犯罪ではないか』と考えを巡らせることが大事です。法律というのは、これらの先にある。これ以上の加害者・被害者を作らないためにも、私自身も活動を続けていきたいと思います」

(文:衣輪晋一)

<プロフィール>
佐藤大和(さとう・やまと)。レイ法律事務所代表弁護士。2017年に、芸能人の権利を守る団体である「日本エンターテイナーライツ協会」を立ち上げ、共同代表理事を務める。エンタテインメント、芸能法務、マスコミ対応、企業法務、第三者委員会の対応などが得意分野。厚生労働省「過重労働解消のためのセミナー事業」委員。これまで、『バイキング』(フジテレビ系)、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)など、メディアにも多数出演。

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