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「子どもから、想像力を奪わないでください…」大人向けCMを20年経て絵本にしたワケ「発想を信じ見守ることも大事」

ACジャパンのCMが原案の絵本『まっくろ』(講談社)の画像

ACジャパンのCMが原案の絵本『まっくろ』(講談社)

 2002年にテレビでオンエアされ、衝撃の展開で話題となったACジャパン(当時、公共広告機構)のCMを原案とする絵本『まっくろ』(講談社)が反響を呼んでいる。“子どもの想像力”をテーマにした本作に登場するのは、何枚もの画用紙を真っ黒に塗りつぶし続ける1人の男の子。子どもたちはワクワクとページをめくり、大人たちは戸惑いながら考えさせられる。そんな不思議な絵本に込めた想いについて、絵と文章を担当した2人の作者に話を聞いた。

【画像】「ちゃんとした えを かきなさい…」困り顔の先生と心配顔の友だち

◆20年前に衝撃を受けたACジャパンのCMが原案、大人向けCMを子どもが読む絵本に

 来る日も来る日も画用紙を黒く塗りつぶす小学校低学年くらいの男の子。両親や学校の先生といった大人たちは、理由もわからずオロオロするばかり。とうとう病院に連れていくが、男の子は黒く塗ることをやめない。そしてある日ついに男の子が手を止める。そこに現れたのは、何枚もの黒い画用紙をつなぎ合わせた大きなクジラの絵。そして最後に「子どもから想像力を奪わないでください」というメッセージが流れる。

 1分半の意外かつ衝撃的な展開がインパクトを残したACジャパンのこのCMは、『アジア太平洋広告祭』でグランプリ、『カンヌ国際広告賞』で銀賞など数々の国際的な広告賞に輝いている。その受賞のニュースを留学先のロンドンで目撃したのが、絵本作家・黒井健さんの息子だった。

「滅多に連絡をよこさない息子が『すごいCMを観たよ。父さん、絵本にしてみたら』とメールしてきました。実際に観たら、たしかに衝撃的でした」(黒井さん)

 色鉛筆による柔らかで繊細な画風で知られ、『ごんぎつね』(新美南吉/作)や『ころわん』シリーズ(間所ひさこ/作)など数々の名作絵本を手掛けてきた黒井さんは、大学時代に教育学部で学び、学校や絵画教室で子どもたちに絵を教えていたこともあった。

「つまり“正しい絵画教育”や“評価”をしてきた側でした。また子どもを持つ親でもありますから、(CMに登場する)大人たちの戸惑いや不安もよくわかります。だけど私もかつては何物にも縛られず伸び伸びと絵を描いていた子どもでした。すべての人がそうだったように、ですね」(黒井さん)

 大人の視点から描かれたこのCMを、絵本として子どもに届けるには? その答えも出ないまま、「とにかくCMを作った人に会ってみたい」とあらゆる立場から考えさせられたという黒井さんは、CMの企画立案者である高崎卓馬さんを探し出し、絵本にしたいと申し出たのは、今から約20年前のことだ。

◆画用紙を黒く塗りつぶす…病気なのでは? と答えを急がず、子どもの発想を信じ見守ることも大事

 JR東日本『行くぜ、東北』などのCMのほか、近年は映画の脚本や小説の執筆にも活動の幅を広げるクリエイティブディレクターの高崎卓馬さんは、「あのCMの少年は僕なんです」と言う。

「小学校の図工の時間に、たぶん先生から見て“正解”とは思えない絵を描いてしまったんでしょう。『ちゃんとした絵を描きなさい』と言われて、すごく悔しかったんです。あのCMであえて不穏なムードが漂わせているのも、『大人の決め付けが無意識に子どもを傷つけてしまうこともあるのでは?』というメッセージを大人に刺さるように描きたかったからでした」(高崎さん)

 それだけに黒井さんからの申し出には、「あのCMを子どもが読む絵本に?」という戸惑いもあったという。

「画用紙を真っ黒に塗りつぶす男の子と、困惑する大人たちという構図はそのままに、不穏さを入れないとしたらどんなお話にすればいいんだろう? そんなふうに悩んでいたときに、黒井さんのスケッチに導かれるように浮かんだのが『まっくろだけどやわらかい。まっくろだけどこわくない』という文章でした」(高崎さん)

 一般的な絵本のようなカラフルさはないが、黒井さんの独特なタッチが目に優しく暖かい。絵本の結末もCMとは異なり、ホッと笑顔になってしまうようなラストシーンが描かれている。

「ある読者の方が『子どもと親である自分とでは、読み方がぜんぜん違った』という感想をくださいました。子どもは延々と続く黒いページを『次は何が出るかな? 何が出るかな?』とワクワクしながらめくっているのに、自分は『次はどうなってしまうんだろう』と心配になってしまったと。そして最後のページでようやく安心して、それと同時に子どもに対して『ごめんなさい』みたいな気持ちになったというんです。そのワクワクしていた気持ちを、もっと信じてあげられたらよかったな、と」(高崎さん)

 たしかに「子どもが画用紙を黒く塗りつぶす」という行為には、大人から見たらドキッと心配させられるものがある。

「自分の子どもがそれをやっていたら、『子ども 画用紙 真っ黒 病気』と検索してしまうかも? という方もいました。それも現代では1つの対処方法かもしれません。親が心配するのは当たり前です。だけど簡単に答えを出そうとしないで、もうちょっと時間をかけてもいいんじゃないかなと思うんですね。子どもを見守る、といいますか」(高崎さん)

◆デジタルの普及による弊害も、自分と似た価値観で集い“他人”を理解することが難しくなった現代

 絵本では画用紙を黒く塗りつぶす子どもに、先生が「ちゃんとした絵を描きなさい」と言う。しかし「ちゃんとした絵」とはいったい? かつて絵画教室で子どもに絵を教えていた頃のエピソードを、黒井さんが話してくれた。

「なかには親に言われて渋々教室に来ている子どももいるんですね。そういう場合は、絵を早く描き終わらせて、残りの時間は鬼ごっこをして遊んでいました(笑)。子どもたちに絵を嫌いになってほしくなかったから。その指導が正しかったかどうか、答えは永遠に出ません。大人だって失敗します。だからこそ考え続けることが大事だと思います。私はいろんな絵本を描きますが、読み終わった後に『あれってなんだったんだろう…』と、大人は大人なりの、子どもは子どもなりのクエスチョンが残るような絵本が好きです。バラエティ番組というよりは、深夜ドラマのような絵本といいますか(笑)」(黒井さん)

 子どもの伸び伸びした発想と、それを理解できない大人の不安。そんなギャップをヒリヒリと描いたCMが、20年の歳月を経てユーモラスかつ暖かな絵本に生まれ変わった。「私の絵がグズグズと進まなかったから」と言う黒井さんに対して、高崎さんは「いや、誰かが20年待ちなさいと言ってくれていたように思うんです」と言う。

「20年前に比べてインターネットやSNSが発達して、たぶん1人ひとりの世界がかつてより小さくなっている。自分と似た価値観の人で集まりやすくなって、“他人”を理解するのが下手になっているように思うんですね。この絵本ではそれが“大人と子どもの関係性”になっています。自分とは考えが違う誰かを許せない人が増えているいま、『まあまあ、もうちょっとゆっくり相手を見守ろうよ』ということを黒井さんの絵が優しく伝えてくれています。そういう意味でもこの絵本は、20年前よりも響くものになっているんじゃないかと思います」(高崎さん)

(文/児玉澄子)

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