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『獺祭エタノール』利益度外視の赤字でも製造するワケ 山田錦生産農家への深い共感とリスペクト

山田錦を主原料とするエタノール消毒液『獺祭エタノール』(旭酒造)の画像

山田錦を主原料とするエタノール消毒液『獺祭エタノール』(旭酒造)

 酒米の帝王・山田錦を主原料とするエタノール消毒液『獺祭エタノール』が、SNSで話題となった。その名の通り、製造・販売するのは国内外で人気の純米大吟醸酒『獺祭』の蔵元である旭酒造。飲食店のアルコール提供自粛要請やインバウンドの低迷で過去にない苦境に立たされるなか、さらに「作れば作るほど赤字」という『獺祭エタノール』を、あえて製造し続ける酒蔵としての気概を聞いた。

【画像】国内外で人気の純米大吟醸酒『獺祭』の製造工程

◆清酒由来の消毒用エタノールは作れば作るほど赤字に、利益を生まない『獺祭エタノール』

 新しい生活様式の1つとなったエタノール消毒液。ひと頃は店頭でも品薄となったことから、昨年5月には政府が酒造メーカーの製造・販売する「高濃度エタノール液」に酒税を課すことなく流通できるなどの特例措置を出した。

 今では複数の蔵元が消毒用エタノールを製造・販売している。しかしSNSで話題を呼んでいる『獺祭エタノール』を製造・販売する旭酒造の4代目蔵元で代表取締役の桜井一宏さんは、「(原価の高い)山田錦で作る清酒由来の消毒用エタノールなので作れば作るほど赤字なんです」と語る。

「消毒用エタノールの製造はアルコール濃度を高める蒸留という過程を経るため、清酒の約2倍の原料が必要です。また酒米は一般の食用米に比べて高価格で取引されますし、そもそも通常の消毒用エタノールはお米より安価な穀物でも作られるわけですから、経済原理的には合わないんです。恐らく酒米で作っている他の酒蔵も同様だと思います」

 『獺祭エタノール』(750ml/1650円)は、純米吟醸酒・獺祭と同様に“酒米の帝王”と呼ばれる高品質な山田錦が主原料。日本酒のような華やかな香りとさらりと柔らかな手触りが特徴で、ユーザーからは「消毒液による手荒れが気にならなくなった」「香りがいいから頻繁に消毒するようになった」と好評を博している。

「香りも楽しんでいただけているのはうれしいですね。これもひとえに山田錦という酒米の魅力ゆえです」と顔をほころばせる桜井さん。しかし前述のように『獺祭エタノール』は利益を生まない。それでも製造し続ける理由には山田錦という酒米、そしてその生産農家への深い共感とリスペクトがあった。

◆コロナ禍で前年比4割減、免税店売上は99%マイナスに…それでも「酒米を買い控える」ことはしない

 コロナ禍に伴う飲食店の休業やアルコールの提供停止は、ドミノ倒しのようにさまざまな業界に打撃を与えてきた。酒造メーカーもしかりで、旭酒造も昨年5月頃には売上が前年比4割減に。さらに『獺祭』はインバウンド需要も高く、免税店での売上は99%マイナスという有様だったと言う。

 こうした状況では、フレッシュな味わいが魅力の日本酒の製造量は減らさざるを得ない。必然的に影響を受けるのが酒米の生産者だ。減反で農地が荒れてしまったら、元に戻るまでには長い時間がかかる。さらに日本の農家は高齢化が進んでおり、廃業も加速している。

「ありがたいことに、私たちとお取引している農家さんは『まだまだ頑張るよ』と言ってくれています。それでも苦しいことに変わりはない。私たちは酒造組合など、一括して酒米を購入する仕組を経由することなく、生産者から直接酒米を購入しているので、頑張って酒米を作ってくれている人たちの顔が見えるし、声も聞こえるんですね」

 そうした生産者の状況を目の当たりにし、自社が苦境のなかでも旭酒造は「酒米を買い控える」という考えはなく、早期段階で例年と同じ量を酒米農家から購入することを決めた(翌年以降も同数を購入する予定とのこと)。酒造だけでなく全ての可能性を求めて山田錦を原料に開発したのが、『獺祭エタノール』だったというわけだ。

 一部ユーザーからは「農家が心血を注いだ酒米をエタノールにするのは冒涜じゃないか」という声も寄せられた。一方で生産者からは「世の中のお役に立ちたい」と背中を押された。

「社会の幸せに貢献してこそ、事業を存続する意義がある。その思いは私たちも生産者も同じです。弊社の製造メンバーも1日でも早くお手元に届くよう、酒造りができない時間と労力を存分に注いでくれました。製法は山田錦で作ったお酒を蒸留するというごくシンプルなものです。シンプルだからこそストレートに立った山田錦の香りを皆さんに喜んでいただけて、改めて山田錦という酒米の素晴らしさを実感しています」

 旭酒造では『獺祭』のみにこだわって製造しており、そのほかのブランドは保有していない。利益度外視の『獺祭エタノール』は、その原料である山田錦の生産農家を支えるための取り組みだった。

◆平常時に戻りつつある海外からの輸入が全売上の50%を占めるように

 もちろん本来の純米大吟醸酒『獺祭』も売上の落ち込みにただ手をこまねいていたわけではなく、国内外のテイスティングイベントにオンライン出展するなどの施策を続けてきた。もともと海外の日本酒愛好家にも人気の『獺祭』だが、近頃では平常時に戻りつつある海外からの輸入が、全売上の50%を占めるという。

「オンラインによって物理的に移動することなく、1日で複数ヵ国のイベントに参加したこともありました。ただやはりお酒というのは人と人をつなぐものであって、オンラインの限界を感じているのも事実です」

 コロナは人々を分断したと言われるが、「私はそう思わない」と桜井さんは力強く言う。

「むしろ1つの業界だけではこの状況は乗り越えられない、私たちは運命共同体なんだということを深く実感しています。それは私たちと酒米農家もそうですし、販売店や飲食店、消費者の皆さんもそう。立場の違う皆が繋がることで前に進もうとしている、それがこのコロナ禍で色濃く見えてきました」

 『獺祭エタノール』をきっかけに、山田錦や生産農家に思いを馳せてもらえる機会が広がったことも「うれしかった。そしてそれは他の酒蔵でも同じ想いで作り、同じ想いを感じていると思う」と語る桜井さん。

「新たにエタノールを蒸留する機械を購入しましたが、いつまで製造し続けるかは未定です。できれば1日でも早く『獺祭エタノール』が必要のない世の中が来てほしい。私もしばらくお会いできていない生産農家の方々と『獺祭』で乾杯したいですね」

(文/児玉澄子)

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