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吉田恵輔監督インタビュー、「空白」な時代の、「空白」な世の中に見つけた光

映画『空白』(9月23日公開)の吉田恵輔監督(C)2021『空白』製作委員会の画像

映画『空白』(9月23日公開)の吉田恵輔監督(C)2021『空白』製作委員会

 主演・古田新太の狂気に満ちた演技や、共演する松坂桃李の“土下座”姿などが話題の映画『空白』(9月23日公開)。この映画は、現代の「罪」と「偽り」、そして「赦し」を映し出すオリジナル脚本のヒューマンサスペンスだ。脚本・監督は、『ヒメアノ〜ル』(16年)、『愛しのアイリーン』(18年)、『BLUE/ブルー』(21年)など、いずれの作品も観る人の心を強く揺さぶる作品を精力的に発表している吉田恵輔。「キャスティングで、もう勝ってる」と語る吉田監督が本作に込めた思いとは?

【動画】映画『空白』撮影の舞台裏を大公開

 物語は、中学生の万引き未遂から始まる。中学生の少女・花音(伊東蒼)がスーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢(ひ)かれて死亡してしまう。娘のことなど無関心だった少女の父親・添田充(古田)は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長・青柳(松坂)を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。

──古田さんと松坂さんに、演出について何も話されなかったそうですね。

【吉田】素晴らしい芝居を、もっとよく撮るにはどうすればいいか、それだけに集中しました。キャスティングで、もう勝ってるからね。

──古田さんの役へのアプローチはどう思われましたか?

【吉田】古田さんの芝居には、価値観が変わるほどの衝撃を受けました。たとえば、スーパーの前に仁王立ちしているシーンで、ものすごい圧を感じて感動して「カット」をかけたら、4歩移動した古田さんは全く同じだった。つまり、ただ立っていただけなんだけど、見る側が何かを感じる。それをたぶん、才能と呼ぶんだろうね。けっこう考えていたのと、違うアプローチでくることもあって。そんな大事なせりふを淡々と言って流れてしまわない?と思うんだけれど、「こっちだよ、正解は」と気付かせる説得力がありました。

──たとえば、どのせりふですか?

【吉田】「みんな、どうやって折り合いつけるのかな?」とタクシーの中で言うせりふは、作品のテーマでもある。「伝われ、俺の言葉」みたいに熱量が出そうなのに、ボソボソっと。でも、その方がリアルだと感じたし、それを拾ってくれるお客さんを信じようと思った。結局、答えなんかないし、それぞれでしかあり得ないし、折り合いをつける必要があるのかどうかもわからないけれど、人はそうやって葛藤しながら生きているということが伝わる。古田さんの人生経験が、画から匂ってくる。同性から見ても、カッコいいな、こういう人になりたいなと憧れる存在です。

──松坂さんは、どうでしたか?

【吉田】今回は受け身の芝居が多いけれど、日本を代表する受けのプロフェッショナルなので。

──とことん、追い込まれましたね。

【吉田】青柳は「ちゃんと話せば伝わるよ」「世の中そんなに悪いもんじゃないよ」とおばあちゃんに諭されるけれど、一つも伝わらないし、何も返ってこない。だけど、最後に「ここから?」というところで、誰も言ってくれなかった、ねぎらいと感謝の言葉をもらう。どんな些細な言葉でも、どんな状況でも、人には救われる可能性があることを感じてもらえればいいなと思います。

──片岡礼子さんが演じる、充の娘をはねた女性ドライバーの母親の存在に関して監督の考えを聞かせてください。

【吉田】娘の葬儀にやって来た添田を見て、なるべく丁寧な言葉で、でも言いたいことは言おう、抗議しようと本当は思っていた。でも、出てくるのは娘への気持ちばかり。添田は自分と同じ境遇になった彼女に対して、「お前も俺と同じことしてくるんだろ、でも俺は負けないぞ」と構えていたら、全く違った。彼女の娘への愛情が、「同じ親として俺にできることは何だろう」と、添田の心を動かしたのだと思います。

──添田の元妻・翔子(田畑智子)、青柳、添田のラストカットのライティングが美しかったです。

【吉田】逆目(※読み:逆目/意味:逆のライト)はほかのシーンでもやっていますが、部屋の中の光はコントロールできるので、光量を少し多くしたりはしています。結構こだわったのは、屋外の海沿いでの撮影。たとえば花音が歩いているオープニングシーンは、地図を見ながら、太陽の位置と角度と海の位置の関係によってロケ場所を選び、歩く角度とカメラの角度を決めています。

──ラストシーンも古田さんに任されたそうですね。

【吉田】1回しか撮らない、何が来てもOKにすると決めて。でも、ここまで頑張った映画が台無しになることはないという自信がありました。古田新太の一番のファンとして、最後に「カット」をかけるだけでしたね。古田さんは泣くつもりはなかったらしいのですが、「こんな絵を見たら、お父ちゃん、泣いちゃうよ」と。

──同じ雲が同じイルカの形に見えていたという娘とのつながりですね。

【吉田】感性や価値観に、少しでもつながりがあったという喜びですね。一瞬しか映りませんが、花音の絵には添田の乗っていた船が小さく描いてあって、添田の絵には花音が通っていた学校が描いてあります。

──最後の古田さんの顔は、「カット」の後の表情だと聞きました。

【吉田】「カット」と言われた古田さんが、泣いているところから視線を上げる。古田新太に戻ろうとした目の動きが、添田が前を向いたように見えたこともあり、使いました。また、あのカットでクランクアップなので、「俺の主演映画の撮影は終わった」という感情の動きもある。心が変わる瞬間で切った方が、この映画のラストにふさわしいと思いました。

──今の時代にこの作品を放つことに、どんな手ごたえを感じていますか?

【吉田】今の時代に公開するのに、非常にふさわしい作品になったと感じています。『空白』というタイトル自体が、この世の中に合っていると思う時点で、残念なことではある。だけど、最後に見える光を受け取ってほしい。世の中は変えられなくても、個人は変えられるし、それを信じたい。世界に優しくしなくても、隣人に優しくするくらいでいいので、まずは自分が変わればいい。大事なのは、他人を認める想像力かな。この映画が、寛容になることを考えるきっかけになればいいなと思います。(取材・文:山元明子)

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