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NHK『うたコン』CPが語るコロナ禍の挑戦「“歌”そのものに向き合う姿勢が気づかせてくれた歌番組の力」

『うたコン』司会を務める谷原章介(左)と赤木野々花アナウンサー (C)NHKの画像

『うたコン』司会を務める谷原章介(左)と赤木野々花アナウンサー (C)NHK

 NHKホールに観客を招き、演歌・歌謡曲からポップス、洋楽、ミュージカル音楽まで趣向を凝らしたステージを展開し、その模様を生放送で全国の視聴者に届けるというスタイルで幅広い世代の人気を集めてきた歌番組『うたコン』。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、無観客での放送に切り替えざるを得なくなってから、この8月で1年半が経過した。その間、チーム一体となって、コロナ禍における歌番組のあり方を追求し、様々な切り口でお茶の間に“歌”を届け続けている。指揮を執る同番組のチーフ・プロデューサー、一坊寺剛氏に今の思い、そしてこれからの展望を聞いた。

【表】コロナ禍の1年半『うたコン』放送の流れ

■歌、そして歌番組の存在意義を、原点に立ち戻って考える日々

 2016年のスタート以来、NHKホールに観客を招き、生歌唱・生演奏で歌を届けてきた『うたコン』。同番組が、無観客による生放送に踏み切ったのは、新型コロナウイルスの影響で多くのイベントが中止または延期を余儀なくされ始めた昨年2月25日。その後、緊急事態宣言の発令を受けて、4~5月は視聴者からのリクエストを募った特別版を生放送。ようやく無観客ながらNHKホールからの生放送を再開させたのは、緊急事態宣言解除後の6月9日、約70日ぶりのことだった。

「歌手の皆さんもライブやイベントが中止になり、歌う場がなくなっていたときでしたから、無観客とはいえ、ステージで歌うこと自体をとても喜んでくださいました。ただ、目の前にお客様がいらっしゃらない中で歌うことについて、多くの歌手の皆さんが『何に向かって歌えばいいのか、つかみにくかった』とも話されていたのが印象に残っています。改めて、お客様がいらっしゃってこそ私たちの番組は成り立っていたのだということを感じるとともに、お客様を招いた歌番組をお届けできることがどんなに有難いことだったのかと痛感した瞬間でもありました」

 有観客での公開生放送が再開できたのは、それから4ヶ月後の10月13日。しかし、年明けには2度目の緊急事態宣言を受けて、再び無観客での生放送となるなど、状況は目まぐるしく変化している。そういった過程を経て一坊寺氏は、歌番組のあり方について「大きな発見があった」と振り返る。

「お客様と一緒になって、歌を紡いでいくという私たちの番組の“本来の形”での演出ができなくなり、どうしたらいいのか模索するうちに、そもそも歌番組は何のためにあるのか、歌番組の存在意義や歌そのものの存在意義を原点に立ち戻って考えるようになりました。古今東西、歌はその時代その場所で様々な境遇に生きる人々の気持ちを節に乗せることで、共感を生み出してきたという側面があったと思います。だとしたらコロナ禍の今、どんな歌が求められ、どんな歌を視聴者に届けるべきなのか。この時代に響く歌、季節ごとに感じたい歌、歌手の皆さんのパワーなど、僕らはきちんと歌に、そしてアーティストに向き合い、さらにテレビを通してご覧の皆さまの今のお気持ちに沿った歌をお届けすることが、自分たちが最初にやるべきことなのではないかと。当たり前のことですがそう思うに至りました」

■番組の新たな理念「今こそ、みんなの心に響く歌を」のもと番組ロゴも変更

 その思いを確信させたのは、昨年末、70年の歴史で初めて無観客開催となった『NHK紅白歌合戦』だった。

「僕も制作に携わったのですが、従来の、お客様と一緒に盛り上がる“お祭り”のような演出ができない中で、視聴者の皆さんに届く歌は何なのか。音楽そのものに焦点を当てることに立ち戻って、スタッフ一同、番組作りを考えました。おおむね成功の評価をいただけたことで、『うたコン』において僕らが進めようとしていることも、あまりズレているわけではないのだなと思いました」

 そして今年3月9日、その思いを具現化するべく、番組ロゴをポップなテイストから、ストイックでゴージャス感のあるゴールドに変更。その日の台本には、「どんな時代にも、わたしたちには歌があります…(中略)…いま、わたしが聴きたい歌を。いま、だれかと聴きたい歌を。いまこそ、みんなの心に響く歌を。今夜も、うたコンで最高の歌を。」と出演者やスタッフ全員で共有するための、番組の新たな理念が記された。

 とはいえ、過去の名曲から最新のヒットソングまで、数多ある歌の中から、今、何を届けるか。「その選択は難しい」と苦笑いする。

「視聴者の皆さんが今、何を感じているのか考えるうえでは、世の中の空気を読まなくてはなりませんが、当然これがめちゃくちゃ難しい。例えば、オリンピックでのメダルラッシュで盛り上がったムードがある一方、新型コロナウイルスの感染拡大によって不安や不満を抱えている方、激務を強いられている方、そして仕事を失った方もいる。これまでになく、皆がバラバラな方向を見ている社会と言えるのかもしれません。ただ、歌が皆の気持ちを端的に表現し、共有や共感を生み出し、私たちをつないでくれる存在だとすれば、自分たちはなるべく多くの人々に寄り添える歌をチョイスし、いろいろあったけれど『うたコン』を見て、まぁ今日1日、無事に済んでよかったよな、明日もなんとかなるよなって、テレビをご覧になった方にそのように思っていただける。そんな時間を提供することが、自分たちのなすべきことなのではないかと、今更ながら感じています」

■試行錯誤しながら放送を続ける中で感じた可能性、そして新たな出会い

 そうやって“歌”そのものに向き合う姿勢…、時代に合う“歌”、“歌の力”を追求するようになった過程で、これまで番組に出演することがなかったアーティストたちの出演も増えるようになった。例えば、Def Techの「My Way」やフラワーカンパニーズ「深夜高速」は、「すごく心に響いた」「『うたコン』で生演奏が観られるなんて!」とSNSで盛り上がり、折坂悠太や、C&K、奇妙礼太郎の出演も大きな反響を呼んだ。コロナ禍をきっかけに、届ける歌の幅が広がったのだ。

 さらに、演出面でも、無観客のステージにおいて、気づきと手ごたえを得た。その一例が、4月13日放送の回だった。布施明が「マイウェイ」を歌唱したのだが、背後から撮影したカットの中に、「いないはずのお客さんが見えた瞬間があった」という。

「お客様が目の前にいないところで、いつにも増して届けようとする歌い手の気持ちと、演出の見せ方の工夫が相まったとき、たとえ無観客であっても、お客様と一緒に歌を紡いでいるような、臨場感あふれる映像をお届けすることはできるのだと、強い可能性を感じました」

 現在、NHKホールが改修中のため、番組は東京国際フォーラム、NHK大阪ホール、NHKスタジオの3ヶ所を使用して生放送を行っている。それぞれの特色を活かしつつ、どうしたら視聴者に喜んでもらえる番組を届けられるか、試行錯誤は続いている。

「ひたすら模索し続けた1年半でした。今後、コロナ禍以前と同じ状態に戻れるのか、誰もわかりませんが、その途中にいる今は、とにかく立ち止まらず、デメリットと思われることもメリットと捉えて創意工夫し、チャレンジを続けていきたいと思います」

 コロナ禍によってもたらされた苦難を、歌の力を再発見し、再アピールする好機ととらえ、前進している『うたコン』。長引く外出自粛要請で、孤立してしまいがちな今、“歌”という人類の宝を武器に、人々を結びつけ、共感を生むメディアとして挑戦し続ける同番組に今後も期待したい。

(文・河上いつ子)

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