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「リラックスできる場所を作りたい」スローライフゲームのパイオニア『ぼくなつ』制作者が語る、20年以上前からこだわる“負けない世界”

綾部和氏の画像

綾部和氏

 近年『あつまれ どうぶつの森』の世界的ヒットなど、スローライフ系ゲームソフトに注目が集まる中、2月に配信された“Nintendo Direct”において、Nintendo Switch用ソフト『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』が発表された。ゲームソフト『ぼくのなつやすみ』シリーズを手掛ける綾部和氏がゲームデザイン、脚本を担当するということで、SNSは大きな盛り上がりを見せた。20年以上前から“エモさ”“ノスタルジー”を主軸とした作品を作るパイオニアでもある綾部氏に作品に込める想いを聞いた。

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■ゲームの中に勝ち負けの要素を入れないことが作品へのこだわり

――綾部さんが作品をつくるときに、特に大切にされていることを教えてください。

綾部 2つありまして、まずひとつは「ゲームに戦いや争いの要素を入れず、心を安らぐことができる」こと。そしてもうひとつは「誰でもエンディングまで到達できる」ことです。ゲームの世界では戦うことも多いですし、そういうゲームのファンもたくさんいますが、僕の作るゲームではリラックスしていただけるといいなと。

――今回、『クレヨンしんちゃん』という人気作品を扱うことが決まったときは、どう思われましたか?

綾部 とにかくワクワク感が強かったですね。ゲームを制作するとき、はじめのころはどうしても気になる部分がありながら進めていくことが多いのですが、今回は最初から期待感のみが高かったです。“クレヨンしんちゃん”と“夏休み”の組み合わせだけで楽しそうなイメージなので、多くの方に興味を持ってもらえるのではないかと思っていました。

――企画に対し、クリエイターとして魅力を感じたポイントはありますか?

綾部 『クレヨンしんちゃん』の場合、原作やテレビアニメでは、日常的なエピソードが主ですが、映画ではSFになったり、時代劇になったり、突拍子もない設定を盛り込んでも成立するんですよね。こんな作品はなかなかないので、この利点をゲームに生かしたいと考えました。

――逆に、人気作品ゆえに苦労した部分はありますか?

綾部 歴史があり、大勢のファンがいる作品ですので、苦労する要素があったと思うんですが、今回はありがたいことに、漫画の出版元である双葉社さんや、アニメを手掛けてこられたシンエイ動画さん、ADKさんにも制作協力として参加していただけたので、判断を仰ぎながら開発を進めていけました。当然、キャラの3D化やセリフなどのリテイクで、苦労した部分はありましたが、人気作品だから増えてしまった苦労というのはありませんでした。

――いろいろと制限がかかってしまいそうなイメージですが、そんなことはなかったと?

綾部 そうですね。原作のある作品なので、完全に自由ではありませんが、今回はかなり自由にやらせていただきました。「ゲームの中に原作には存在しない新しい世界を作り出すこと」が必要だったのですが、それもすぐに了承していただけて。やりたいことを思う存分、盛り込ませていただきました。

――物語の舞台となる“アッソー”のことですね。

綾部 そうですね。しんちゃんのお母さん・みさえの故郷が熊本県の阿蘇市で、その隣の隣にある“アッソーの町”なんです。新しい世界を作り出すとはいえ、現実世界の“地続き”であることにもこだわりました。

■こんなご時世だからこそ、ゲームの中だけでも自由な旅行を楽しんでほしい

――本作は『ぼくなつ』シリーズの1作ではなく、完全新規のタイトルですが、違いはどんなところに出ているのでしょう?

綾部 恐竜なども出てくるので、『ぼくなつ』シリーズと比べると、やや非現実的といいますか。突拍子もない体験ができるタイトルに仕上がっています。とはいえ、お話や元になる設計を作っているのが同じ人間、つまり僕自身ですので、似ている部分はいくつかあると思います。

――昨年より、新型コロナウイルス感染症の影響で、自由にレジャーを楽しめない状況が続いています。本作は、そういった方たちの気持ちを埋めるタイトルにもなり得ると思うのですが、作品の中身に“こうした状況を加味した部分”はあるのでしょうか?

綾部 そこだけを強く意識したわけではありませんが、「ゲームの中だけでも自由な旅行を楽しんでほしい」という気持ちは確かにありました。現実の疲れを癒してほしいのに、現実のつらさを突き付けられるような展開は入れたくなかったですね。

――今のこの状況もそうですが、綾部さんが20年以上前からこだわられてきたことですもんね。

綾部 そうですね。『ぼくなつ』シリーズ第1作が発売されたのは2000年で、当時は世の中全体が「さようなら20世紀」という雰囲気でした。「過去を振り返ること」をゲームのテーマにしたらおもしろいかなと思ったら、思いもよらぬヒットをしたんですよ(笑)。当時このような作品で大成功したタイトルはなかったように思いますね。最近、『ぼくなつ』シリーズのCMをすべてならべた動画を見たら合計18分もあったんです。すごいですよね。自分のことじゃないみたいでした。

――時代にマッチしたテーマだったわけですね。とはいえ昨今では、幼少期に田舎で夏休みを過ごした経験のない人や、生まれも育ちも都会で、帰る田舎がないという子どもたちも大勢います。それでも“懐かしさ”に、多くのプレイヤーが期待を寄せているのはなぜだと思われますか?

綾部 これは『ぼくなつ』第1作の発売時にも感じたことなのですが、遊んでくださったユーザーさんの中には、大人世代だけでなく、小学生のお子さんも大勢いらっしゃって。リアルに「田舎で夏休みを過ごす」という経験がない子どもたちにとっても、新鮮だったらしく、『ぼくなつ』をプレイすることが、ある意味、夏休みの思い出になっていたみたいです。「今まで一度も虫取りをしたことがなかったけど、『ぼくなつ』で初めて経験して、昆虫のことが大好きになりました」といったご意見も届いていました。作り手としても嬉しい限りですね。

――昨年には『あつまれ どうぶつの森』の世界的大ヒットしたり、以降も『天穂のサクナヒメ』や『牧場物語 オリーブタウンと希望の大地』のようなスローライフ的な側面のある話題作が続いていますよね。

綾部 『あつ森』は僕も遊んでいて、大好きな作品です。今はこういったジャンルの市場が形成されているというのがうれしいですし、今でもこうして僕に声をかけていただいて、新作を楽しみにしていただけるのは、本当にありがたいことですね。

――そんなスローライフ作品に対し、「『ぼくなつ』の要素が受け継がれているな」と感じるところはありますか?

綾部 これはあくまでも、僕が思っているだけなんですけど、『あつ森』の花火大会や、海開きで海に飛び込むシーンなどにシンパシーを感じることはありますね。それと、これはゲームではないのですが、アニメ映画の『思い出のマーニー』で、『ぼくなつ3』に出てきた北海道の七夕のシーンがあったり、作中で使われている曲『アルハンブラの思い出』も、『ぼくなつ2』と同じなので、もしかしたら制作スタッフの中に、『ぼくなつ』シリーズを好きな方がいらっしゃるのかな?と、勝手に妄想したりしています(笑)。

■意識しなくても作品に出る“ノスタルジー”「出身である北海道の夏が短いことが関係しているかも」

――同ジャンルのなかでも、綾部さんが手掛けられるタイトルからは独特の“エモさ”と“ノスタルジー”が感じられます。

綾部 そう言っていただけるのはありがたいというか、複雑な心境なのですが、僕自身には「ノスタルジックな作風に仕上げよう」といった考えはあまりないんですよね。僕は北海道出身なので、本州に比べて夏の期間が短いんです。そのため、「夏というのは切ないものだ」という意識が子どものころからあったように思うので、それが作品にノスタルジックな雰囲気を加味しているのかもしれないですね。今作も舞台はたぶん現代なのですが、やっぱり「ノスタルジーだ」と言われています(笑)。

――強く打ち出しているわけではないのに“懐かしさ”が滲み出てしまうのですね。いよいよ発売を迎える『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」〜おわらない七日間の旅〜』ですが、手元を離れて、リリースされる現在の率直なお気持ちを聞かせてください。

綾部 発売の数ヵ月前の時点で“マスターアップ”という、開発陣の手元から作品が離れるタイミングがあるので、「寂しい」とか「名残惜しい」といった感情はすでに乗り越えています。今はただ、「ひとりでも多くの方の手元に届いてほしい」、「できるだけ多くの方に遊んでいただきたい」という気持ちです。ゲームは、映画や本といった他のコンテンツと違い、作り手だけで完成させることはできなくて。ユーザーの皆さんの手元に届き、遊んでもらって初めて“完成を迎える”ので。

――ゲームはユーザーにとって“受け取る”ものではなく、“プレイする”ものですもんね。最後に、「本作はこんな存在になってほしい」という思いはありますか?

綾部 「多くの方に遊んでいただきたい」のはもちろんですが、そのうえで、「本作にインスパイアされて、ゲーム開発を志すようになりました」とか、「新しいゲームのアイデアを思いつきました」といったクリエイターが出てきてくれたら嬉しいですね。それと、ゲーム本編に負けず劣らず、主題歌もいい感じに仕上がっていますので、プレイ時には音楽にも意識を向けていただけると幸いです。こんなご時世だからこそ感じられる日常と非日常のアンバランス感、そしてリラックスできる雰囲気を堪能していただけるはずですので。

取材・文/ソムタム田井

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