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「お父さんは“毒”を作っているの?」葉たばこ農家の苦悩、禁煙社会の逆風の中でも“枯れぬ誇り”

沖縄の葉たばこ農家、(左から)伊禮(いれい)安則さんと山城晴紀さん (C)oricon ME inc.の画像

沖縄の葉たばこ農家、(左から)伊禮(いれい)安則さんと山城晴紀さん (C)oricon ME inc.

 5月31日は世界禁煙デー。日本でも、喫煙に関する規制は年々強化され、増税による価格の上昇もあり、たばこの消費量は年々減少。今後も先細りしていくであろうことは確かだ。非喫煙者にしてみれば喜ばしい社会とも言えるが、一方でそんな嫌われ者のたばこにも、国内にはほかの作物と同様に生産者はいる。たばこに対する風当たりが強まり、時にバッシングにさらされることもある葉たばこ栽培に従事する農家は、いま何を感じているのか? 葉たばこが“日本の田舎”を支えてきた背景など、沖縄の葉たばこ農家に4月に取材を行い、生の声を聞いた。

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■ここ10年で生産量も4分の1に…減少する葉たばこ農家

 日本で、喫煙者人口(20~64歳)がピークに達したのは、1996年から1998年ころ。そこまで増加していたたばこの販売数量も、1998年末の「たばこ特別税」創設以降、減少の一途をたどっている。厚生労働省による『成人喫煙率』(厚生労働省国民健康・栄養調査/2019年)によると、習慣的に喫煙している人の割合は16.7%(男性27.1%、女性7.6%)。ここ10年ほどでも大きく減少しており、喫煙者はもはやマイノリティと言える存在となった。

 2019年以降も、度重なる増税、2020年4月に全面施行された改正健康増進法などにより、喫煙者はさらに減少していると見られる。この動きに連動して、たばこの原料である「葉たばこ」の生産量は、2005年が4万6800トン、2020年が1万3700トンと、15年で4分の1ほどに減少。栽培する耕作面積は、1万9200ヘクタールから6200ヘクタールに、農家数は1万5000人から4400人にと、大きく目減りしている。

 喫煙者人口に比例して縮小し続ける葉たばこ農業だが、意外にもその分布は北海道以南の全国にかなりの数が分散しており、沖縄やその離島にも多い。

■「そこまで嫌うのか…」、排除されるたばこを作り続けるジレンマ

 伊禮(いれい)安則さん(57歳)と山城晴紀さん(32歳)は、沖縄県糸満市で葉たばこ栽培に従事する農家。ベテランの伊禮さんは、葉たばこ農家となって24年目。若手の山城さんは7年前から栽培に従事しており、それぞれ当初は別の会社勤めをしていたものの、親の跡を継ぐ形で葉たばこ農家となった。現在のたばこを取り巻く状況については、伊禮さん、山城さんともに、やはり「不安はある」と語る。

 「たばこだけが病気の元凶と言われたり、吸った後30分はエレベーターに乗ってはいけないと貼り紙をされていたり。ちょっとやり過ぎではないかなと思うし、そこまで嫌うのか…という気持ちはあります。以前、学校で『たばこは毒だ』と教わってきた自分の子どもから、『お父さんは毒を作っているの?』と言われ、なんとも言えない気持ちになりました」(伊禮さん)

 「こんな状況で、たばこ農家を続けていて大丈夫か?という思いはあります。自分の子どもが大人になる10年後には、一体どうなっているのか。やる気があるなら継いでほしいですが、たばこを取り巻く状況がどうなっているかわかりませんよね」(山城さん)

 葉たばこの栽培には、畑づくりに始まり、ビニールハウス内での育苗、畑への植え替え、機械や手作業での栽培管理、収穫などの行程がある。さらに沖縄県南部では、農家自身で乾燥作業も行っている。短期集中型で、管理作業をしながら収穫も行うなど手間のかかる作業も多く、ちょっと目を離したすきに葉が熟しすぎてしまうと使い物にならなくなる。専用の機械が必要なこともあり、代々で受け継がれている場合が多いそうだ。

 また、沖縄という場所がら、「台風で葉や茎が折れることもあり、気象によっては生育にかかわる。以前、5月に台風が発生したときは、育てていた葉たばこが全滅してしまったこともありました」(伊禮さん)と、栽培の苦労を明かす。

 現在、195人の葉たばこ農家がいる沖縄県。他の地方に比べ、大規模農家が多く、働き手も若いと言われている。とはいえ、県南部(糸満市と八重瀬町)でも、もともと22人いた農家は7名に減少。「後継者不足もあり、年々減っていっている」(伊禮さん)という。

■“日本の田舎”支える葉たばこ栽培、減少が意味するものは?

 だが、もちろん葉たばこ栽培には利点もある。「葉たばこは野菜のように“豊作貧乏”(豊作により作物の供給量が増え、それによる価格下落で農家の利益が減ること)がない。作業はきついですが、収入がちゃんと計算できるよう設計されている産業なので、安定しています」と山城さん。伊禮さんも「沖縄は賃金が安く、以前勤めていた会社では低い収入に甘んじなければいけませんでした。ですが、葉たばこ農家はそれなりの収入が保たれているため、サラリーマン時代より子育ても楽になりました」と明かす。

 沖縄の離島では若い葉たばこ農家が多いが、その点についても「田舎は若者が少なくなっていますが、中山間地でも育つ葉たばこの生産が地域の生活を支え、若者が土地に根付く理由になっています。離島にも独特の文化があり、それを守る担い手が若者。もしたばこが作れなくなってしまったら、若者は島を離れ、都会へ出稼ぎに出ることになり、観光資源ともなる文化も消えていくのではと危惧しています」(伊禮さん)。

 前述のとおり、沖縄のほか、北海道以外の全国各地に散らばる葉たばこ農家。とくに多いのが、青森、岩手、秋田、山形、宮城、福島といった東北、関東では茨城に多く、ほかに長野、四国全域、九州でもほぼ全域にわたる。伊禮さんの言うとおり、葉たばこは他の農作物が育ちにくい中山間地でも栽培できるため、山地が多い日本では地域の主要作物となっていることも多い。全国トップクラスの生産量を誇る岩手県二戸市では、ある小学校のクラス児童の親の半分以上が葉たばこ農家で、地域を支える葉たばこについて、授業で学ぶ機会もあるという。

 だが、たばこの消費量がさらに減少し、農家も減っていくと、そういった地域に住む人の暮らしを支える産業も、その土地の文化も、失われることになるのかもしれない。農業も、作物によってノウハウがある。資本も時間も費やす。産業が消えて若者が村を離れれば、さらに地域の経済規模が縮小し、過疎化する。単純に「他の作物に切り替えればいい」という話ではないのだ。

 このように、日本の葉たばこ農家を取り巻く現状は厳しく、未来も明るいものではないかもしれない。だが、それに従事する2人は、葉たばこ農家としての気概を忘れない。「YouTubeで世界の葉たばこ栽培の様子を見たことがありますが、こんなに手をかけて育てているのは世界中で日本だけ。それだけ品質のいい葉たばこを頑張って作っているんです」と胸を張る伊禮さん。山城さんも、「たばこを吸う人の息抜き、癒しを自分たちが影で支えている自負はあります」と前を見る。葉たばこ栽培の最後の行程、葉の乾燥作業を見せてくれた2人。生産者としての自信に満ちた笑顔が印象的だった。

 伊禮さんは、「たばこを吸うこと、育てること自体が、ひとつの文化になっているのでは」と語る。「私たちは、日本のたばこ、たばこを取り巻く文化を守りたい。そのためには、吸う人も吸わない人も快適に過ごせる、分煙社会を実現することが大切だと思います。お互いが思いやって、冷静に考えられるようになったらいいですね」と、今後のたばこ産業の行く末を見据えている。

 とかく“嫌われ者”であるたばこ。だが、その裏側には全国の生産者がおり、それにより支えられる地域もある。時代による淘汰は仕方ないことかもしれないが、単に排除するだけでなく、逆風の中にいる彼らの気概と願いもまた、知っておくべきことではあるはずだ。

(文:衣輪晋一)

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