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デジタル化の波にあえて逆行、“VHSの温かみ”伝えたい…映画愛に溢れるU-NEXTが目指す未来像

『映画なんか、観てる場合だ。』 U-NEXTが映画業界の現状を危惧して発信した広告。東京・六本木駅構内に掲出の画像

『映画なんか、観てる場合だ。』 U-NEXTが映画業界の現状を危惧して発信した広告。東京・六本木駅構内に掲出

 終わりの見えないコロナ禍で、“不要不急”の代名詞とも揶揄される「映画」。だが実情に目を向けると、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が興行収入約397億円で歴代興収1位を塗り替え、『新・エヴァンゲリオン劇場版』も80億円を突破。『花束みたいな恋をした』は約36億円と大ヒット作は生まれている。そんな現状について動画配信サービス『U-NEXT』の映画部部長・林健太郎氏は「観る人は“間違いない”ものを効率的に観たい」と分析。その真意を聞くと、なぜ『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』がここまでヒットしたのか、一方で動画配信サービスで「なぜこの名作・ヒット作がないの!?」という疑問に対する答えも浮き彫りになった。

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■レビューサイト・SNSの浸透で、映画のヒット作が一極集中化

 このコロナ禍で興行収入はどう変わったか。コロナ禍以前の2019年に目を向けると映画興行収入の全数は約2600億円。そしてコロナ禍の2020年は約1400億円に減少している。だが“不要不急”がこれだけ言われたことを考えると1400億という数字は意外に多い。「『鬼滅』のヒットがあったからじゃないの」と安直に考えがちだが、『鬼滅』がなくても1000億円を超えていることにすぐ気づく。

 林氏は2020年を振り返ってこう話す。「もちろん、映画館へのダメージを考えると本当に心が痛みますが、それでもあの“不要不急”の雰囲気の中で、例年の半分ぐらいの方が映画館に足を運んだということにはすごく勇気づけられました。やはり映画って、求められているものなんだと」

 最近のユーザーの傾向として、林氏は「観る人は“間違いない”ものを効率的に観たい」「ニッチなものは観られにくい」「多様性が減ってきている」とも話している。確かに去年は『鬼滅』に一極集中した印象だ。「映画が一極集中型になったのは今に始まったことではなく、20年近く前ぐらいから。いわゆるシネコンが普及し、1本のヒット作が何スクリーンも独占し、1日に何十回もかけられるようになったからです。それに拍車をかけたのが、レビューサイトやSNSの台頭ですね」

 つまり『食べログ』と同じように、観客は「間違えたくない」と点数の高い作品を調べて映画を観に行くようになった。レビューサイトで点数が高い映画、SNSで話題の映画だ。逆に一部の人に刺さるニッチな映画、クセの強い映画などは、賛否両論で点数が伸びづらいので観られづらい傾向に。これが「多様性の減少」で林氏が危惧している面だ。

 『鬼滅』の大ヒットもここ10年の動きが無関係とは考えにくい。それまで1位だった『千と千尋の神隠し』が上映されたのは20年前。もちろん『鬼滅』の面白さ、クオリティ、アニメのメインカルチャー化などの要因もあるが、ネットの普及も大いに関係している。林氏はこう付け加える。「以前は、実のない映画でも予告や宣伝でどうにか注目を引いて、ある程度のヒットに繋げることはできた。しかし今は、レビューサイトやSNSによって、本当に面白くない作品は淘汰される。ヒットする上で、一定ラインのクオリティが必須になったのは、正しい動きと言えます」

■「理にかなってはいないが”愛”は感じる」VHSの魅力

 こうした中で、『U-NEXT』は昨年12月、とあるCMを制作した。「映画なんか、観てる場合だ。」――そんなキャッチコピーが印象に残る「映画集め」篇だ。映画好きだった主人公が、母からの電話で昔撮りためてはラベリングして並べていたVHS(ビデオテープ)を処分するかと聞かれ、映画に夢中だった頃を思い出すというエピソードで、テレビや映画館で放映。これが映画好きの間でヒットした。

 SNSでは「映画館で観たが、映画なんて観てていいのだろうかと思っている中で背中を押されて思わず泣いてしまった」「映画の本編よりも印象に残った」などの声が多数。林氏は「僕は映画業界を応援したい。映画こそ今観るべきなんだよと映画ファンを応援する気持ちを届けたかった。映画館で予告編が始まる前に流れていたCMなので、本編を観た後につぶやいていただけたというのは、それなりにパワーがあるCMになったのかなと思い、うれしかった」と顔をほころばせる。

 そんな林氏もVHS、レンタルビデオ店全盛世代だ。ギャガ、キネマ旬報社で働いていた経歴もあり、映画愛は深いという。同CMにも登場した「ラベリングしたVHS」は、当時からの映画ファンからは間違いなく郷愁を誘うものであり、多くの人が通ってきた道ではないだろうか。

 「VHSというアイテムはノスタルジーを感じるものだと思います。あの“モノ”感がいいですよね。磁気テープに映像が記録されており、盤にデジタルデータが記録されているのとは何かが違う。観終わった後の巻き戻しにも時間がかかる。あの大きさも良いんです。並べると背表紙感があり、本棚のように並べられたのを見る感覚もいい」

 あの“箱”の中に「映画」が入っている、何かが詰まっている、そうした得体のしれなさ…。例えば『リング』の「呪いのビデオ」も、あれがVHSだからこそ恐怖が成り立ったと言えないか。DVDやUSBだったら、あそこまでの恐怖はあったか。「大きいから場所も取ってしまうし、ラベリングで無駄に文字を凝ったりして。そういう意味ですごくいい意味の“無駄”ですよね。理にかなってない。だけれども、なぜか愛を感じるんです」

■”ちゃんとそこに人がいる”感 デジタル化、AI化の時代に逆行

 林氏は、映画とそれ以外のエンタメとの違いについても語ってくれた。「昨今は映像コンテンツを、1.5~2倍速にして観る人も多いと聞きます。例えば新聞やビジネス書を読むように、『情報収集する』という意味で倍速機能を利用するのは確かに効率的かもしれません。ですが映画でそれをするのは、あまり意味がない行為だと思っています。映画は、単なる情報収集をするためのメディアではなく、例えば作品の中で描かれる30秒間の沈黙、その“間”も監督が考え抜いた“意味”がある。これを飛ばしてしまうと、作品の本質を掴めず、観たことにすらならない恐れがあると思うんです。映画というものはたった2時間の中で、自分ひとりの人生では絶対味わえないようなありとあらゆる人生を追体験できるように、さまざまな要素がギュッと凝縮されています。これはその尺のまま集中して見切った方が、ある意味“効率的”にもいいと思います」

 林氏のこの映画愛は『U-NEXT』の映画コンテンツにも表れている。目指しているのは古き良きレンタルビデオ店。そのリスペクトとともに構成しているのだという。

 「レンタルビデオ店に比べれば弊社の見放題映画ラインナップは1万本とまだまだ少ないですが、このプラットフォームの中に1万本の“VHS”が並んでいるようなイメージ作りをしたいんです。その為に、レンタルビデオ店にあるような“特集”もたくさん用意しています。映画ファンなら押さえておきたい俳優別、監督別の棚組みはもちろんのこと、かなり細かいテーマ別にも用意していて、今では5000特集を超えています。レンタルビデオ店のポップの手作り感、あたたかみーー。一見冷たく見えるデジタルの世界で展開されているからこそ、特集でその奥に“ちゃんと人がいるんだよ”ということを伝えたい」。昨今はデジタル化、AI化でむしろ働く“人”が減っている。それに逆行する“人の存在感”を動画サービスの中で表現したいということだ。

 こうした地道な取り組みも功を奏したのか。コロナ禍の巣ごもり需要にも後押しされ、U-NEXTの有料会員数は2020年8月に200万人を突破した。これだけのラインアップがあれば映画ファンにも支持されると想像されるが、映画ファンとしては正直、納得いかないことがある。「なぜこの名作・ヒット作がないの!?」問題だ。「例えば、ある人気シリーズ映画の中で、1と3と4が配信できているのに、2だけでない、という時期がありました。これは、本国における権利関係がこじれていて、買付ができなかったからです。うちだってもちろん揃えたい。お客様目線では『あたりまえにあるべきものが見られない』ことは大きな不満になると認識していますが、たとえばシリーズものの一部や不朽の名作がない場合は、現時点では配信できない何かしらの事情があるのだろうと思っていただけるとありがたいです(笑)。もちろん、そういった作品については、必ず問題を解決して配信できるように動いていきますので、今後もご期待ください」

  “不要不急”の代名詞「映画」。しかしこんな時代だからこそ、映画によって得られる追体験が自身の血肉になるという考え方もできる。無機質に見えた動画配信サービス業界の裏側は、実は人間味あふれる“愛”でいっぱいだ。何かと心がすさみやすいコロナ禍で、その愛に触れてみるのも一興ではないか。

(文/衣輪晋一)

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