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テレ東、音声コンテンツに注力 異色グルメ番組『ハイパー』音声版が狙う“最低限の説明”の面白さ

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の音声版『ハイパーハードボイルドグルメリポートno vision』が配信スタートの画像

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の音声版『ハイパーハードボイルドグルメリポートno vision』が配信スタート

 テレビ東京が社内に設立した音声コンテンツレーベル『ウラトウ』が制作するポッドキャスト番組を、国内外のSpotifyのリスナーに配信することが決定。その第1弾として、異色のグルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の音声版『ハイパーハードボイルドグルメリポートno vision』が28日より配信される。

【写真】番組の場面カット

 「食べる=生きる」をコンセプトに、世界各地のあまり知られていない場所で生活する人物のもとへディレクターが向かい、彼らの食事を通して生き方や人生観に触れるテレビ版に対し、音声版は国内が舞台。カメラを持っては入れない知られざる世界にマイクのみで潜入し、顔を出さない音声だからこそ可能な密着取材によって、そこで生きる人々の本音や日常に臨場感あふれる構成で迫る。

 今回の配信にあたって、番組を手がける上出遼平氏、スポティファイジャパン音声コンテンツ事業統括の西ちえこ氏、『ウラトウ』プロデューサー井上陽介氏に話を聞いた。

■きっかけは取材時に感じた「カメラが邪魔」との思い 制約のないSpotifyに参入

――『ハイパーハードボイルドグルメリート』は、映像のインパクトもある番組ですが、その音声版を配信しようと思った理由について

【上出】一口で説明するのは難しいのですが、これまでロケをしていて「カメラが邪魔だな」と感じていたというのはあります。身軽になればなるほど、いろんな世界に入っていける。それは映像版の『ハイパー』をやっていた時も同じで、数人で構成されるロケ隊だと行けないところにも僕一人だったら入っていける。そうすると、今までと違う物語に出会うことができた。けれど、それでももっと身軽になりたいな思っていて、どこを減らせるだろうかと思った時に次はカメラかなと。一人でカメラ4台持ってロケしていたので。

それで、色々なポッドキャストコンテンツを聞いていたら、僕がやっていることはこのオーシャンにはないなと感じたんですね。上質なコンテンツはたくさんありますが、僕らがテレビで今までやってきたような、突撃感や潜入感も含めて楽しむようなものって、少なくとも日本にはないなと。外国のものを聞いていても、音声のドキュメンタリーの多くは落ち着いた場所で座り板付のダイアローグ(対話)によるもので、我々のように、突撃していくような、ある意味で粗暴な、でもその裏にはちゃんとした文法が存在しているものがなかったので、これはチャンスだと思った。あと自分が本を書いた経験も関わっています。テレビではない別のメディアで、物語を伝えるための道具(例えば映像)を手放して表現することの楽しさを知ってしまったんです。そしてそれは必ずしも作り手のエゴに止まるものではなくて、受け手にも全く新しい経験として楽しんでもらえるということも実感していたので、さらに新しい表現は何かと考えた時に、画を捨てて音だけ残す“音声”という選択肢に注目したというのがきっかけでした。

――先日、カメラを持って取材することによる力関係について論じられていました。

【上出】カメラというものの存在意義は良くも悪くも大きいので、それを取っ払った時に、取材相手とどういう関係を築くことができるかっていうのはすごく面白いだろうなと思っていました。やってみたら、やっぱり面白かった。カメラを向けられた状態で発せられる声と、カメラがない状況での声との間には明確な差があります。リスナーにとっても従来のドキュメンタリーとは違う聴取体験になるなと思いました。

――今回、音声分野であるSpotifyが、映像分野となるテレビ東京とパートナーシップを組んだ理由をお聞かせください。

【西】我々が展開しているポッドキャストは、大きな制約がないんです。唯一と言える条件は音声であるということだけなので、フォーマットや決まったものがない世界で、ぜひ表現していただきたいと。テレ東さんの一番の強みは、ストーリーテリングだと思ってずっと注目していました。映像ではいろんな手法で見せられるんですけど、その軸となる物語をどう伝えるかというのを突き詰めて考える方がテレ東さんには多くいらっしゃって、その人たちが音声コンテンツを作ったらどんなに面白いんだろうっていうワクワクがプロジェクトとして実現することになりました。

■音声のみで伝える難しさと魅力 今後のテレビ界は「出し方をもっとフレキシブルに」

――音声のみで伝える上で、取材段階で気をつけた点、編集での工夫点は?

【上出】簡単に言うと、今までよりも全てが難しいということですね。『ハイパー』では地上波のときでさえも、ナレーションや吹き替えをなくしたりしていますから、一般的な感覚で言えば、説明が足りていないはずなんです。だからどうにか画で状況や心情を伝えようと苦心してきました。けれど今回はそこに映像までもなくなってしまったものですから、より一層説明の手立てがなくなってしまって…。現場での僕の声や環境音に頼らざるを得なかったので、そういう部分ではすごく難しかった。今までのロケでは視覚に集中していましたが、今回のロケではずっと耳を澄ませていました。。

聴覚に集中すると、今まで気にも留めなかったことに気がつきます。例えば電車に乗っていても、「このドアが開いて雑音が入ってくる、その増幅していく音が録れたら車両から降りたっていうことが伝わるな」とか。すごく楽しかったですが、困難ではありました。そういうものをうまく組み合わせて、リスナーに状況を体感してもらえるように工夫しました。これは作り手にとって困難であるのと同時に、リスナーに想像力を要求する作りになってもいるわけです。それは一見ネガティブな要素にも感じられるかもしれませんが、能動的にコンテンツを体験する楽しさは一度覚えると抜け出せないはずです。、

――ラジオの中継などでは、映像が見えない分、状況などを、言葉を尽くして説明する印象がありますが、今回の『ハイパー』音声版はそういった説明は最小限に留まっているのでしょうか?

【上出】最低限になっているかなと思います。説明することに意味や必要があれば、そういった表現はしていますが、リスナーのみなさんのそれまでの人生・経験・記憶に委ねている部分が大きいかと思います。、僕が手渡す最低限の情報から、みなさんで構築して楽しんでいってもらいたいなと。僕と並行して、いろんなディレクターが取材をしているのですが、彼らの録ってきた音声を聴かせてもらって驚きました。聴いた後一晩寝てから、そのディレクターに音声の感想を伝えていたら、完全に僕の頭の中に行ってもいないロケの舞台がビジュアルのイメージとして定着していることに気付いたんです。見てもいないのに部屋の間取りとか、ベッドの位置とかも、なぜか記憶として定着していて、それはすごく面白いし強烈だなと感じました。映像で見て構築されるビジョンよりも、自分の頭の中で構築するビジョンの方が強く印象に残っているんだなと思いました。

――テレ東とSpotifyで、制作のすり合わせなどはあるのでしょうか?

【井上】コンテンツの内容についてのすり合わせは特にありませんでした。元々『ウラトウ』として制作していた『ハイパー』があり、その取組についてSpotifyさんに興味を持っていただいて、幸運にも独占配信が決まりました。今後はpodcastという新しい分野について意見交換させていただきながら、制作に活かしていけたらと考えています。

【西】今回こうやってパートナーシップを、音声コンテンツレーベルという形で組ませていただくというのは、今後複数のコンテンツを一緒に作っていきたいなという思いからです。条件は音声であるということだけなので、こちらから内容について細かく干渉することはありません。Spotifyは一時のムーブメントで終わらせず、文化を作っていくことを使命にしているので、このプロジェクトは一過性のものではなく、継続していきたいと考えています。上出さんはもちろん、テレ東さんにはいろんなクリエイターさんがいらっしゃるので、作り手として音声というものの面白さを知っていただくための環境を整えていきたいと考えています。Spotifyとしては、テレ東さんにはSpotifyの持つ豊富なデータやインサイトを随時共有して、新しい企画の開発に携わっていけたらと思います。

――取材へのハードルが下がったりと、音声版でプラスに働いた部分はありますか?

【上出】カメラを向けられながら突撃されるのは、精神的な負担が大きいはずですし、表情をカメラで撮られている状況って、やっぱり人を緊張させるので、音声だけだと取材のハードルが一段低くなりましたね。その先にも、やり取りの中で親密さが醸成されるスピードも圧倒的に早いということがあるので、そういう意味ではメリットがすごく大きいと思います。あとは、本当に身軽に、このレコーダー1台でロケしちゃうので、すごく簡単です。

――今回の音声コンテンツしかり、配信とどのように向き合っていくのかというのが、今後のテレビマンにとっても、さらに喫緊の課題となってくるかと思いますが、上出さんはどのように考えていますか?

【上出】我々はテレビ局としてマスとのコミュニケーションを毎日やってきて、そこで得た知見の量ははほかに負けないはずです。それを生かす場所を広げることができるかできないかが今の分かれ道だと思います。地上波に対するこだわりみたいなもの、その呪縛から逃れる必要があるのではないかと感じています。モノづくりのコアはすごく強いので、出し方をもっとフレキシブルにして、恐れずにやっていくことが必要なんじゃないかなと。自分たちがやるべきことは何なのかというのを考えることが、簡単に言うとすごく大切じゃないかと思います。お客さんの需要に応えていくだけではダメじゃないですか、っていうこともあります。だって目に見えて減っていってるんですから。。我々が新たな需要を喚起させないといけないですし、新たな市場にもガンガン踏み込んでいって、失敗したらやり直しっていうことをやっていかないといけないんじゃないかなと思います。この試みで、テレビから離れていってしまった人を再びテレビに引きずり戻したいと思っています。

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