
郷土のストーリー伝える玩具
はっきりした赤色の体に、ひれや尾を模した黄色の柄。真っ黒なまん丸目玉のキョトンとした表情が愛らしい。
霧島市隼人の鹿児島神宮に伝わる信仰玩具・鯛車(ルビ:たいくるま)。同神宮の祭神である山幸彦が兄の海幸彦の釣り針で釣りをしたところ、赤い魚が釣り針をくわえたまま逃げてしまい…という神話をもとに誕生したとされる。

神宮で保管する江戸時代の島津家文献には「木魚」として鯛車が記載されている
現在、鯛車を製作するのは「工房みやじ」の一軒のみ。77歳の花見ユリ子さんが、鯛車をはじめ初鼓(ルビ:はつつづみ)(ポンパチ)や香箱(ルビ:こうばこ)など9種類の製作を請け負う。
小学2年生の頃から、父で3代目の宮路武二(ルビ:たけに)さんの手伝いを始めたという花見さん。作業の仕方はじっと見て覚えた。初午祭の準備で作業に追われる冬は、かじかむ手を火鉢で温めながら動かした。

花見ユリ子さん。作業机から窓の外の飛行機を眺める時間がお気に入り
「絵付けもハマ(車輪)付けも、全部好き」。瞳を輝かせて語る表情に、50年間製作を楽しんできた姿が浮かぶ。「腰が痛いこともあるけれど、できるところまでは続けたい」。材料となる木を切りに行く夫や、後継ぎとして家事をしながら手伝う2人の娘たちが支えだ。
神宮そばの宮内小では毎年、花見さんによる玩具製作の体験授業が行われる。鯛車やポンパチの絵付けに夢中になる子どもたち。鹿児島神宮・権禰宜(ルビ:ごんねぎ)の宮内伸広さんは「手作りの玩具を通して、神宮に伝承する神話や郷土の歴史に興味を持ってほしい。次世代にも大切につないでいきたい」と話した。
工房みやじ
- 霧島市隼人町内山田3-21-20
- 0995(42)2832

武二さんが50年前に製作し、普段は鹿児島神宮の拝殿に置かれている特大鯛車。ただ今お色直しのため工房に里帰り中
よかもんのススメ…
鹿児島神宮

鯛車やポンパチ、香箱のほかにも、羽子板やはじき猿、シタタキタロジョなど信仰玩具が多く伝わる鹿児島神宮。それぞれに神話をもとにした由来があり、厄除けや家内安全、安産といった願いが込められている。郷土玩具ファンからは「おもちゃ神社」とも呼ばれ、玩具目当てで県外から訪れる人がいるほど知る人ぞ知る存在だ。
通年10月第3日曜に行われる「隼人浜下り」では、神宮から隼人港までを武者行列が練り歩く(今年は14、15日の予定)。秋以降は境内で香るキンモクセイや、紅葉の色づきも楽しみ。
鹿児島神宮
- 霧島市隼人町内2496-1[MAP]
- TEL:0995(42)0020
- 受付時間/8:30~17:00
- P/あり