
クラシックギター ギター職人の田中さん
世界に一つの 音色のために
美しいくびれと丸みを帯びたボディーが特徴的なクラシックギター。ギター職人の田中俊彦さんが自作のギターをつま弾くと、ぬくもりの中にほんの少し切なさが漂う、やわらかな音が広がった。
田中さんの工房は、薩摩焼の里として知られる日置市東市来町美山にある。ギターに興味を持ったのは、大学に入学して誘われるがまま入部したマンドリンクラブがきっかけだ。演奏よりも楽器そのものに引かれるようになり、4年生で大学を中退、東京のギター製作家に弟子入りした。

田中さんが製作したギターの数々。サウンドホールと呼ばれる真ん中に開いた穴や、ボディー全体から音が鳴る。全てオーダーメイドで価格は30万円~
6年間の修業ののち、鹿児島に帰郷。準備期間を経て美山に工房を開いた。特にゆかりがあったわけではなく「ものづくりの町だと知らなかった」という美山だが、陶芸や手仕事にかかわる人たちとの交流を楽しみながら、45年間ギターを作り続けている。
製作に使う木は、独立前に入手しストックしてあるものがほとんど。ボディーの前面にはジャーマンスプルースやレッドウッド、横や裏にはローズウッドと、木の特性を生かし、合わせていく。「同じ楽器でも弾く人によって音は違う」という音楽の醍醐味を語りつつも、できる限り依頼者の好みに近い音が鳴るよう、「見た目は美しく作りも丁寧」が田中さんの理想だ。

機械で大体の大きさに切り分けた木材を、たくさんの道具を使い手作業でギターにしていく
注文依頼者は青春時代をギターと共に過ごした70代が多いそうだが、中には小学5年生も。皆、手入れや手直しをしながら自分だけの音色を紡いでいく。
田中ギター工房木の工房
- 日置市東市来町美山1538-2MAP
- TEL:090-6634-5354

工房の一角には「YouTubeを先生にして」手作りしたバギーが。ナンバーを取得し買い物やツーリングにも出かける。「所ジョージさんの“世田谷ベース”ならぬ“美山ベース”」と笑う田中さん
よかもんのススメ…
木の工房

スプーンなどのカトラリーは1000円くらい~。マグカップは5000円~。
木工作家としての顔も持つ田中さん。「木の工房」も名乗り、木製カトラリーを販売している。サクラ材などから作られるスプーンやフォークは、口当たりや手触りが優しいなめらかな仕上がり。木をくりぬいたマグカップや小枝の形をそのまま残したマドラーなど、自然の息づかいを感じる一点ものの作品が、食事やお茶の時間を豊かに彩ってくれそうだ。繊細な作業で集中力が要るギター製作に比べ、「思いのままに作れる」という木工品。「気に入った、と再び買いに来てくれる人もいてうれしいですね」

手作りランプシェード(非売品)もすてき。営業時間・休みは不定のため、訪問時は事前に連絡を。