
イタチの毛を使った筆で絵付けする(垂水市の「絵付け舎 薩摩志史」にて)
薩摩ボタンを現代に根付かせ、世界に打って出たい。原動力は母の教え。
◆ON “「復刻」ではなく「復活」”
薩摩焼の窯元で絵付師の助手をしていたころ、薩摩ボタンの存在を知りました。薩摩ボタンは江戸末期に討幕運動などの資金を得るために薩摩藩の御用窯で作って海外に輸出されたという伝説があり、1867年のパリ万博にも出品され生産が追い付かないほどの人気だったそうです。
実物を見たくなって、東京の「ボタンの博物館」に行き、わずか5センチほどのボタンに描かれた繊細な世界に魅了され「自分の手で復活させたい」との思いを強くしました。
その後イタリア留学を経て石川県で九谷焼の人間国宝に指導を受けるなどした後、実家のある垂水にアトリエを開いて本格的に制作活動を始めました。製法や道具の資料が残っておらず最初は手探り状態で、ボタンを焼いてくれる窯元も見つからず、十数軒目でやっと満足のゆく物を焼いてもらえる職人と出会えました。
昔の薩摩ボタンの絵柄は生活風景、花鳥風月が中心でしたが、私は直感やひらめきで描くようにしています。美しいと思うものをどう表現するか・・一番悩むところです。
薩摩ボタンを復刻するのではなく、現代の生活にどう根付かせ復活させるか、そのためには「すてきだな」と思ってもらえるデザインであることが大事です。薩摩ボタンの魅力を多くの人に知ってもらい、いつかまた世界に打って出られたらと思っています。
室田 志保(むろた・しほ)さん
- 薩摩ボタン絵付け師
1975年生まれ、垂水市出身。鹿児島純心女子短期大学を卒業後、白薩摩焼窯元絵付け部入社。
2004年に鹿児島県青年会議所の海外留学派遣事業留学生に選ばれ、イタリアのフィレンツェに短期留学。
05年に橋本陶正山を退社し、垂水にアトリエ「絵付け舎 薩摩志史」を開く。09年、日本ボタン大賞展審査員特別賞(優秀賞)受賞。
◇OFF “「生きる力」を子供へ”
5歳と1歳になる男の子の子育て真っ最中ですが、家族や周囲の協力のおかげで日中は制作に専念できます。子供たちに望むのは「生きる力を持った人間になってほしい」ということですね。私も子供のころから母に「どんな時代が来ても生きられるように」と育てられてきました。野菜や米を育て、風呂はまきで沸かす、自給自足ができる人間になりなさいと。農繁期は、学校を休んで手伝うのが当たり前でした。
近年になって「生きる力」という言葉がしばしば取り沙汰されますが、母は時代のだいぶん先を行っていたのだなと感心します。どんな時代になっても子供たちがちゃんと生きていけるよう、母の思いをつないで育てていくこと― それが私の「私服=至福」の時間です。
10問10答
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Q大事なものは?
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A家族
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Q愛読書は?
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A「神の器」(申翰均著)、「ボタン博物館」(大隅浩監修)
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Q日常生活で心掛けていることは?
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Aよく食べて、よく眠る
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Qリフレッシュ法は?
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Aママさんバレーにやじ専門で参加
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Q座右の銘は?
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A一筆入魂
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Q熱中していることは?
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Aデザインのインスピレーションが湧く昆虫観察
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Q尊敬する人は?
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A師匠、母校の恩師
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Q鹿児島の好きなところは?
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A芋づる式にいろいろな人とつながるところ
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Qこだわっているものは?
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A肉(主人が牧場を経営しているので)
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Q特技は?
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A集落の夏祭り限定で披露する山本リンダのものまね「室田リンダ」